プロフィールProfile
バルバラ・アレックス
小学生6年生(2023年3月現在)。イタリア人の父親と、日本人の母親のもと、イタリアで生まれ、2歳の時に日本に来日する。2022年の平和記念式典で、地元のこども代表として「平和への誓い」に参加するなど、平和活動に力を入れる。
広島に移り住み、様々な分野で活躍する G7各国出身の「人」にフォーカスする企画「リレーインタビュー Our Life, Our Hiroshima」。
フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ各国それぞれ異なるバックグラウンドを持つ方々の目から見た広島での暮らしや、広島が持つ魅力をお届けします。
この春から中学校に進学するバルバラ・アレックス(Barbara Alex)さん。2022年8月6日の平和記念式典で、広島市内の小学生を代表して「平和への誓い」を世界に向けて発信しました。イタリア人と日本人を親に持ち、広島で育つアレックスさんが考える「平和」についてお伺いしました。
ライター:中道薫 撮影:浅野堅一 編集:丸田武史(CINRA. Inc,)
アレックス:僕のお父さんがイタリア人で、お母さんが日本人です。イタリアから日本に来たのは、僕が2歳のときなので、当時のことはあまりよく覚えていません。
お母さんに聞いた話だと、最初は東京に住んでいたんですが、ちょうど東日本大震災があって、東京に住み続けるかどうかを悩んでいたときに、イタリアでお世話になった神父様から「広島にカトリックの教会と私が園長を務める幼稚園があるから、遊びにきてください」と連絡をもらったのがきっかけで広島に住むことになったようです。
うちはカトリックなので、家の近くには教会が欠かせません。さらに、広島は教育環境も良さそうということがわかり、まだ小さかった兄と僕の将来を考えて移住したそうです。それ以来ずっと広島に住んでいます。
アレックス:はい、3人兄弟の1番下です。一番上のお兄ちゃんは、今イタリアに住んでいて、2番目のお兄ちゃんと僕は広島で暮らしています。
上のお兄ちゃんはずっとイタリアに暮らしていたので、アイデンティティはイタリア人のようですが、僕は特に「自分がどこの国の人か」という感覚はありません。ただ、イタリア語がほとんど話せないし、ずっと生活してきた日本人としての感覚のほうが強いです。
広島は、自然が豊かで海もあるし、北部にスキーのできる山もある。給食も美味しいですよ。レモンと魚の和えものやカキフライ、広島菜とか名産品を使ったメニューがたまに出ると嬉しいですね。
アレックス:はい。毎年、平和についての作文で選ばれた広島市内の小学6年生20人が、自分たちの書いたことをもとに、世界に向けて何を伝えたらいいか話し合います。
まず、4〜5人ずつのグループで、模造紙に平和に対する思いや僕たちにできることを考えて発表し、みんなでまとめて平和への誓いの原案を作りました。実際に出来上がった原稿を読んだときに、「大人の意見じゃなく、本当に僕たち自身が考えた言葉だ」と感じたのを覚えています。
アレックス:グループワークの中でたくさん出たキーワードが「当たり前」です。平和への誓いの中にも「私たちには、大切な人がたくさんいます。大切な人と一緒に過ごす。笑い合う。そんな当たり前の日常はとても幸せです」というフレーズが出てきます。
他は、「自分たちが語り継がなきゃいけない」というキーワードもたくさん出てきました。
アレックス:イタリアから見た広島や家族のことを書きました。作文のタイトルは『僕が伝えるPACE(パーチェ)*』というタイトルです。
お母さんから聞いた話だと、イタリア人は原子爆弾が投下された広島をとても気にかけていて、日本の話題が出ると、決まって広島の話として、当時の被害状況やその後の復興、平和の尊さを話すのだそうです。
広島平和記念資料館には、海外からもたくさんの人が訪れますよね。イタリアに住んでいる上のお兄ちゃんもその一人で、音声ガイドを聴きながら、展示の前で立ち尽くして泣いていました。
アレックス:戦争がもたらした惨状を、自分の言葉で伝えることが大切だと思うんです。将来、僕が日本に住んでいるか外国にいるかはわかりませんが、これからも、戦争の愚かさを忘れず、平和の尊さを僕自身が受け継いで、いろんな人たちと意見を交わしていきたい。それが、全世界へPACE(パーチェ)を広げることにつながると、僕は信じています。
アレックス:毎週日曜日の教会のミサで、ときどき神父様がロシアとウクライナの戦争について話してくれたりするときですね。そんなとき、何の不自由もなく暮らしている自分の日常は平和だと実感します。
そういう日常が当たり前になっているから、学校での平和学習の時間は、平和について考える大事な機会になっています。平和記念公園に行ったり、平和ウォークといって、教会の遺跡や慰霊碑を巡ったり。
振り返ってみると、小さい頃は、原爆が落ちたという事実も、戦争が何かもよくわかっていませんでした。はっきりと印象に残っているのは、小学4年生で読んだ「ひろしま平和ノート」という教材です。被爆された方々のエピソードから、どんな体験だったのかを初めてちゃんと知って、悲しさよりも驚きのほうが強かったです。
アレックス:平和のための活動をしたくても、普段の生活の中で、しかもたった1人では、なかなか大きな活動は難しいなと感じます。それでも、スーパーやコンビニにあるウクライナ復興の募金だったり、自分にできる小さなことからでも始めていけばいいのかなと。
少し先の話ですが、僕は高校生平和大使を目指しています。平和への意見作文から20人に選ばれたときに、国連で演説をした高校生平和大使の方が来て、お話をしてくださいました。せっかく平和への誓いを読み上げるという貴重な経験ができたので、平和活動をこの1回で終わりではなく、続けていけたらいいなと思っています。
そのためにも、まずはこの春に中学生になったら、国際感覚を身につけたり、英語を勉強して自分の意見をはっきり伝えられるようなコミュニケーションを取ったりできるようになりたいですね。
バルバラ・アレックス
小学生6年生(2023年3月現在)。イタリア人の父親と、日本人の母親のもと、イタリアで生まれ、2歳の時に日本に来日する。2022年の平和記念式典で、地元のこども代表として「平和への誓い」に参加するなど、平和活動に力を入れる。