1. トップページ

Interview 広島から拡大する「持続可能な観光」のカタチ。世界から求められる、広島のポテンシャルとは(カロリン・フンクさん:ドイツ出身)

図書館の蔵書の前に立つカロリン・フンクさん

広島に移り住み、様々な分野で活躍する G7各国出身の「人」にフォーカスする企画「リレーインタビュー Our Life, Our Hiroshima」。

フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ各国それぞれ異なるバックグラウンドを持つ方々の目から見た広島での暮らしや、広島が持つ魅力をお届けします。

広島大学教授カロリン・フンク(Carolin Funck)さんは、「観光地理学」の専門家。四半世紀にわたり広島の変化を見守るなかで見えてきた「観光地としての広島のポテンシャル」とは?

ライター:中道薫 撮影:浅野堅一 編集:丸田武史(CINRA. Inc,)

日独の観光スタイルの違い

フンク先生は大学教授でありながら、合気道の指導もされているそうですね。

フンク:夫と二人で「広島国際合気道道場」を運営しています。合気道は、故郷のドイツにいる頃に護身術として習い始めました。もともとスポーツは苦手だったのですが、やってみたらすごく面白くて。日本に興味を持ったのも、合気道がきっかけです。

初めて日本を訪れたのは、大学を卒業してすぐの1987年。知り合いの紹介で松山に留学することになりました。ただ実際に日本に来てみて、合気道が一般的なスポーツとして浸透していないことに驚きました(笑)。

3年間、松山で過ごす中で、日本とドイツの観光スタイルの違いに興味を持ったのが、現在の私の専門である「観光地理学」につながっています。観光地理学とは、観光活動や、観光が地域に与える影響などを地理学の視点で研究する分野です。

研究室で笑顔を見せるフンクさん
合気道で相手の手首を取るフンクさん

両国にどのような違いを感じたのですか?

フンク:まず、旅行や休暇に対する価値観がまるで違いますよね。日本の社会人の夏休みは一般的に数日程度ですが、ヨーロッパでは、休暇が生活の中で非常に重要な部分を占めています。私も幼い頃から、夏休みは必ず3週間ほど家族で旅行していましたし、今でもドイツの友人たちに会うと必ず「次の休暇はどこへ行くの?」という話が出るんですよ。

広島は日本のいいとこ取り

どんな縁で広島に住むようになったのですか?

「他の都市に住むのは考えられない」と話すフンクさん

フンク:フライブルク大学で博士課程を終えた後、広島大学の地理学の教員募集に応募したのがきっかけです。今年で広島に住んで25年が経ちますが、もう他の都市に住むのは考えられないと感じるほど、気に入っています。

よく“日本の縮図”とも表現されるように、日本のいいとこ取りをしたのが広島だと思っています。

瀬戸内海の穏やかな気候で、海も山も近いから、泳ぎにもスキーにも行きやすい。かつ、空港も新幹線もあるので移動も便利。特に、私が暮らしている東広島の西条エリアは、田舎と都会のバランスが絶妙なんです。スローライフでありながら、生活に必要なものが周りにすべて揃っていて、すごく生活しやすくバランスが取れていると感じます。

だから、初めて日本へ遊びに来る友人には、まずは西条から広島市内を巡って、宮島と尾道、あとは海か山かを選んでもらって案内しています。そうして日本に慣れてから、自分たちで行きたい場所を訪れるのをおすすめしていますね。

SDGsの観点から考える、観光地・広島の可能性

観光地としての広島には、どのような特徴がありますか??

教壇に立ち講義をするフンクさん

フンク:もう30年近く研究していますが、広島は非常におもしろい変化を続けています。外国人旅行者の増加に伴い、特にこの10年間での変化は目覚ましいです。

そもそも広島には国際レベルの観光地が2つもあるんですよ。1つはもちろん宮島です。

宮島は世界遺産の嚴島神社がある文化的な観光地であると同時に、実は自然観光も充実した場所。日本三景にも選ばれる絶景があり、近年インバウンド観光客に人気なのが弥山(みせん)です。展望台からの見晴らしが素晴らしく、島内の旅館に宿泊して山に登る観光客が多くいます。やはり欧米人にとっては、海や島を楽しめる観光が魅力的なのでしょうね。
もう一つは、平和記念公園と平和記念資料館に代表される観光エリア。現在、広島市も市内に残る被爆建造物を巡るツアーを組むなど、平和をテーマにした「ピースツーリズム」に力を入れています。

観光地として、宮島と平和記念公園をコアに、広島県全体、さらには瀬戸内海全体に広がったのが現在までの最も大きな変化で、世界的に意識が高まっているSDGsの観点でも、広島の観光には大きなポテンシャルを感じます。

観光における「持続可能性」ということでしょうか?

図書館の蔵書を読むフンクさん

フンク:はい。そもそも広島や瀬戸内海が持っていた観光資源が、この10年間で少しずつ再発見されています。

いま観光価値として打ち出しているのが、サイクリングです。有名なしまなみ街道を筆頭に、自転車をフェリーに乗せて移動しながら、瀬戸内海のほぼすべての島でサイクリングが楽しめるように道路が整備されています。個人的には、今後マリンレジャーの発展にも期待しています。

その他にも、本土の沿岸には歴史的な港町がたくさん残っており、古くからの建物が改装され、宿として活用されたりしています。過疎化で消滅が危惧される地方は少なくありませんが、持続可能性という意味では、観光による経済の活性化が、失われつつある文化や資源を守ることに貢献し得ると言えるでしょう。

観光が地域にもたらす正負の影響を意識して

逆に広島の観光について、課題に感じる点はありますか?

研究室でインタビューに応えるフンクさん

フンク:観光や関連施設が環境にどのような影響を与えているかについては、広島に限らず、日本でこれからもっと検討していく必要があると感じます。

たとえばグランピング施設は、エアコンが多くのエネルギーを消費し、下水が環境への負担となることもあります。地域に落ちたお金が、どう環境保護に使われているか気にする外国人観光客は少なくありませんし、環境意識はもっと高めていくべきでしょう。同様に、町並みなど、文化財の保護についても、もう一歩踏み込んで考えてほしい。

観光が地域にもたらす影響は、プラスとマイナスが表裏一体です。コロナ禍以前に、世界各地で社会問題化したオーバーツーリズムが、すでに日本でも京都や鎌倉で表面化しつつあり、観光が地域にどんな影響を及ぼすかをしっかりと見つめなければなりません。

これからも広島の観光を見守るフンク先生にとって、人生の目標は何でしょうか?

研究室でパソコンに向かうフンクさん

フンク:私は、人生の目標を持つのが必ずしも良いことだとは思いません。目標を持って過ごすと、意外な出会いや機会を見落としてしまう気がするのです。そしてこれからの世の中は、ますます予測が難しくなる。観光は特に移り変わりが激しい分野なので、いつも学生たちへは「柔軟性が大切だ」と教えています。

強いて言えば、長年続けてきた合気道のように、ぶれない「芯」をしっかりと持ちながら、これからも新しい何かにいつでも寄り道できるように生きていきたいですね。それが人生の目標と言えるかもしれません。

プロフィールProfile

カロリン・フンク
ドイツ南部フライブルク市生まれ。理学博士(地理学)。1987年に来日して以来、松山、西宮、京都、東広島で大学の教員として活躍。日本の農産漁村地域における観光開発をテーマにフライブルク大学で博士号を取得。1998年から広島大学総合科学部で人文地理学、観光地理学の教員となり、2006年の総合科学研究科設置以降、大学院で観光地理学を中心に院生の指導を進めている。研究テーマは持続可能な観光、海洋観光、外国人旅行者による日本国内観光であり、ドイツのバルト海と瀬戸内海が主なフィールドとなる。

Share G7公式サイトをシェアする

Summit Information サミット情報

サミット情報トップ
  1. トップページ