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Interview アートでつなぐ「広島と世界」。ここには家族以外のすべてがある(アデリン・ルメテさん:フランス出身)

ギャラリーの作品の前に立つアデリンさん

広島に移り住み、様々な分野で活躍する G7各国出身の「人」にフォーカスする企画「リレーインタビュー Our Life, Our Hiroshima」。

フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ各国それぞれ異なるバックグラウンドを持つ方々の目から見た広島での暮らしや、広島が持つ魅力をお届けします。

初回に登場するのは、フランス出身のアデリン・ルメテ(Adeline Le Mette)さん。アートギャラリーのオーナーであり、自身もアーティストとして活動する彼女はなぜ異国の地で起業し、広島を発信の拠点に選んだのでしょうか?

ライター:中道薫 撮影:浅野堅一 編集:丸田武史(CINRA. Inc,)

大学生活を通じて切り拓いた「アートの道」

アデリンさんが広島で暮らしはじめたきっかけを教えてください。

インタビューに応じるアデリンさん

アデリン:私は10年ほど前に、交換留学生として広島に来ました。物心つく前からフランスでは日本のアニメや漫画が人気で、和食や着物といった日本文化を楽しむイベントもよく開催されていたので、昔から日本に興味を持っていたんです。

そこで当時、在籍していたフランスのオルレアン大学の1年間の交換留学プログラムを活用して広島市立大学に入学しました。実際に過ごすうちに学校も広島市そのものもすごく好きになって、「1年間はあまりにも短い。もう少しここにいたい」と、そのまま大学院に進学することに決めたんです。

交換留学先として、広島市立大学を選んだ理由は何でしょうか?

アデリン:ほかにも名古屋大学や大阪大学など日本の7つの大学が選択肢にありましたが、広島市立大学に芸術学部があることが決め手になりましたね。以前から「日本で美術を学びたい」と思っていましたし、フランスでも有名な先生方が在籍されていたので、この大学で自分の夢である絵について学びたいと考えたんです。

ただ、実は当時の交換留学先は国際学部で、美術の授業はなかったんですよ。広島に来てしばらく経ってから、大学院進学にチャレンジしたいと芸術学部の先生方に相談してみたところ、「それなら早く授業で勉強や練習をしたほうがいい」とアドバイスしてくださったんです。

それで、油絵専攻の3年生と一緒に授業を受けさせてもらえることになりました。午前中は国際学部の授業、午後は芸術学部と、掛け持ちで。まったく日本語が喋れなかった当時の私を、英語が堪能な先生が熱心にサポートしてくださいました。結果、大学院の博士課程にも進み、トータルで約7年間の学生生活を送りました。

7年ですか。

アトリエのアデリンさん

アデリン:はい。そんなに長く住んだから、もう「フランスに帰ろう」とは思いませんでしたね(笑)。友人もできて、周りの人たちは私にとって、もはや家族のような存在。広島にそのまま住むのが最も自然なことのように思えました。

それで卒業したら何をしようか悩みましたが、やはり愛するアートを仕事にしようと決心したんです。いつか自分でアートギャラリーを開いて、展示を企画しながら、アーティストとして自分の作品制作もできたらいいなというビジョンがあったので、就職ではなく、起業に挑戦する道を選びました。

社会人デビューの初仕事は、恩師と。

現在は広島で、どんなお仕事をされているのでしょうか?

アトリエのようす

アデリン:2020年に会社を立ち上げ、アートギャラリー「L GALLERY」を開きました。さまざまなアーティストの展覧会の企画・運営をしています。また、私自身もジュエリーアーティストとして、ジュエリーブランド「L」でデザイン・制作を手掛けています。

広島市立大学の博士課程では、もともと学んでいた油絵に加えて、彫金を専攻しました。絵画は鑑賞してもらうだけですが、彫金でジュエリーを作れば、自分の作品を身につけてもらえますよね。それでジュエリーブランドも立ち上げたんです。

ジュエリーブランド「L」の製品

今、会社はまだ私1人なので、2つの事業を同時並行で進めるのはなかなか難しいときもあります。2022年は新たに広島市中区のショッピングモール「サンモール」とのコラボギャラリーのオープンに注力しましたが、引き続き「L」の作品ももっと頑張って作っていきたいと思ってます。

異国の地での起業は、とても苦労されたと思います。

アデリン:そうですね。起業は二度とやりたくないほど大変な経験でした(笑)。学生の頃はやりたいことばかり経験できます。ただ、社会人になるとそうはいきません。会社を設立してもうすぐ丸3年ですが、この3年間で、大学の倍くらい勉強した気がします(笑)。ただその分、進歩している実感もあります。

学生時代にサポートしてくれた友人たちは、就職して遠くに行ったり忙しかったりで卒業後はなかなか会えないのですが、広島市立大学の恩師には引き続き助けていただいています。

「L GALLERY」初の展覧会は、その先生の展示を企画しました。初めて自分で手掛けた企画に、アーティストとしても尊敬する先生の作品を扱えたのはとてもいい思い出です。
広島に来て10年、そういう人のつながりがずっと続いているのがとても嬉しいですね。

忘れられない、広島人のやさしさに触れた

10年以上暮らす広島は、アデリンさんにとってどんな街ですか?

象徴するエピソードを語るアデリンさん

アデリン:広島はやさしい人がすごく多い街だと感じます。困ったときは、いつも誰かが親切に手伝ったり、案内してくれたり。それが10年前からずっと変わらない広島の好きなところです。

お話しするのがちょっと恥ずかしいのですが、それを象徴するエピソードが、広島での初めての引っ越しの時の話です。そのときの私は、新居の学生会館に向かって、バスでたくさんの荷物を運んでいました。そして、目的地で降りようとしたときに、うっかり財布を忘れてきたことに気づいたんです。

当時は日本語がほとんど話せず、携帯電話もまだ持っていない時代。バスの運転手さんに「財布、ない」と伝えるので精一杯でした。仕方なく、そのままバスセンターまで来たものの、大量の荷物を抱えたまま途方に暮れてしまって……。

それでどうしたのでしょうか?

アデリン:家に戻るお金もないし、日本語でコミュニケーションも取れない。思わず涙があふれてきました。するとバスの運転手さんが「大丈夫? これで財布を取りに行って」と、1,000円札を渡してくださったんです。

心からの感謝を「ありがとうございます!」という、私に話せる数少ない日本語で伝えるのが精一杯でした。おかげで無事に家まで引き返せましたが、もし運転手さんがいなかったら私はどうなっていたか……。

もちろん人によって対応は違うと思いますが、そのときは「見知らぬ人をここまで手助けできるなんて、優しすぎる」とさえ思いました。

素敵なエピソードですね。

笑顔で語るアデリンさん

アデリン:実は、今でも私は携帯をなくしがちなのですが、いつも誰かがインフォメーションセンターに届けてくれるので、今まで一度も紛失したり盗まれたりしたことがありません。こういう面は、本当に日本はすごいと思います。

アートを通じて「今の広島」の魅力も発信したい

広島での暮らしで困ったことはありますか?

アデリン:広島に限った話ではありませんが、見た目で「観光客」と判断されてしまうことでしょうか。たしかに人種も違うので仕方がないと思う反面、10年以上も愛着を持って住んでいる街なので、少しそれは残念にも感じてしまいます。

それは日本人の課題の一つとも言えるかもしれません.....。

アデリン:ただ最近はコロナ禍でも徐々にインバウンド観光客が広島に来られるようになって嬉しいです。もともと「L GALLERY」は、広島と外国を繋ぐ架け橋にしたいという思いを込めて、平和記念公園の近くにオープンしました。フランス出身の私は、海外アーティストに声をかけやすい。そうやって幅広い作品に触れてもらって、広島のアートシーンをもっと盛り上げていきたいと思ってます。

一方で、「L GALLERY」を広島の人だけでなく、外国人観光客も立ち寄れる場にして、広島のアーティストを海外の方に向けて紹介したいとも考えているんです。私だからこそできるギャラリーにして、互いの文化を繋げる場をつくれたら嬉しいです。

ちなみに、アデリンさんが人生で絶対に叶えたい目標などはありますか?

目標を語るアデリンさん

アデリン:パリにもギャラリーを構えて、もっと立体的に日本と海外のアートを通じた交流を仕掛けていきたい。ギャラリストとしての活動と、アーティストとしての活動を両立しながら広げていくことが一番の目標です。

そうなると、将来的には生活拠点が変わるかもしれませんね。それでも広島に住み続けたいと思いますか?

アデリン:もちろんです。今のところ、他の街で暮らすのはあまり想像できません。フランスにいる家族にはなかなか会えませんが、それ以外の私のすべては広島にありますから。

もしも海外にいる友人に「広島で暮らすってどう?」と聞かれたら、心からおすすめします。パリや東京のように大きな街ではありませんが、生活に必要なものが揃っている住みやすい街。市街地を離れると、市内でも身近に美しい自然があるのも魅力です。私もよく、仕事終わりに愛犬と山に散歩に行ってリフレッシュしています。

街と自然が近いのも、広島の特徴かもしれませんね。

ギャラリーの作品を見るアデリンさん

アデリン:実際に広島で暮らし始めて考えるようになったのは、「今の広島の魅力」を知ってほしいということ。

私もそうでしたが、海外ではきっと「広島=原爆の歴史を持つ平和の街」として捉えられています。そういった過去について知るのはもちろん大切です。ただ、今の広島を彩るさまざまなカルチャーの素晴らしさも同時に知ってもらえたらな、と。

だからこそ私はアートを通じて、広島のそういった側面を世界にアピールしていきたいと思います。平和とアートはつながっていると信じていますから。

プロフィールProfile

アデリン・ルメテ
Adeline Le Mette株式会社 代表
フランス人アーティスト。広島市中区で、インターナショナルなアーティストらの展示を行う「L GALLERY(エル・ギャラリー)」を企画・運営。自らがデザイン・制作に携わるジュエリーブランド「L」も展開する。

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